もちつきにっき

名刺に書いてる以外のこと。

卵は一個

小さいころから母には「卵は一日一個だけだからね!」と言われてきた。

二個以上食べるとコレステロール値が高まり、体に良くないという通説があったからである。

「すきやきには卵だけど、今朝目玉焼き食べちゃったね。でもすきやきには卵だもんねぇ…」と悩む母の後ろ姿を見て、卵とお金の消費は計画的にしなければと胸に刻んだものである。

だが近年それは誤情報であることが広まり、卵は一日に何個でも食べていいことになった。

 

これは私にとってちょっとした衝撃だった。

 

1人暮らしを始めてからも「卵は一日一個、卵は一日一個だけ」と唱え、それを順守してきた。たまに間違って二個食べてしまったときは、母が知る由もないのに少しどきどきした。

 

そんな私が。

 

教えてくれたのは友人だった。ある日、食いしん坊の私たちはいつものように食べ物について語り合っていた。味噌って素晴らしい、あれは唯一無二の味だね、私は味噌汁を一か月我慢することなんてできない、私も無理だ、味噌汁の横に卵かけごはんがいることの幸せ、ああそれだけで生きていける、などと文字におこすと一層しょうもなさが浮き彫りになる会話を繰り広げていたところ、私が「でもどんなにおいしくても卵は一日一個だしね」と言うと友人が「え?それ最近変わったらしいよ」と言ったのである。

 

私たちの体は変わらない。卵も変わらない。

しかしその間にある関係は「最近変わった」らしい。

 

今日から卵は一個じゃない。朝目玉焼きを食べたって、昼卵焼きを食べたって、夜のすきやきにはまばゆいばかりの卵をもう一個。それは罪じゃない。振り向けば笑う母、「卵は何個でも食べていいのよ」。

 


故郷のデパートがいつの間にかなくなってしまったような妙な切なさ。私の中でやっぱり卵は一日一個なのだ。母にはいつまでも「卵は一日一個だけだからね!」と言っていてほしいのだ。