もちつきにっき

名刺に書いてる以外のこと。

奥行き

カレーの作り方を調べていたら「ケチャップを入れると味に奥行きがでます☆」とあった。
奥行きのある、味。
私の味覚機能は大雑把な作りをしている。辛い甘い苦い酸っぱいしょっぱい、うまい。あくまでも私調べだが、この世の97%の食べ物はうまい。どんなものを作ってもうまいので、4年間の自炊生活を経ても私の料理技術はまったく進歩しない。故に友人が遊びにくる夜は冒頭のように「カレー 作り方」で検索をかけるはめになる。そして味の「奥行き」の文字から思考が進まなくなる。私がこれまでの人生で平面味のものしか食べてこなかったのだろうか。今夜来る友人たちはカレーに奥行きがあったらうれしいだろうか。

ある日友人が人っぽくない色の粉を何層もまぶたに塗っているのを見て「なにをしているの?」と聞いたことがある。彼女は「こうすると顔に奥行きがでるの」と言った。
奥行きのある、顔。
私には違いがよくわからなかった。円に影をつければボールに見えたり、線を引けば円柱に見えたりするのと根本的には同じ論理だろうが、彼女の顔はもとから立体だし、その輪郭から後ろに平行線が引かれて円柱になるわけでもない。それはトーマスだ。
聞くと鼻に塗る粉もあるらしい。眉毛を下に書き足すらしい。何が、何がそこまで彼女を奥行きへと駆り立てるのだ。

先日、京都の町を歩いていて、その間口の狭さと奥行きの深さに驚いた。京町屋と呼ばれるその建物は豊臣秀吉の税制に反発するために設計されたものであるらしい(wikipediaより)。奥が見えないほど長く連なる石畳の通路は、不届きものが歩けば一歩踏み出すごとにさらさらと灰になり傍に植えてある椿の肥料となるのではないかと思われるほど上品な緊迫感があった。覗くだけで精一杯だった。

もしかして、奥行きとはあのことだろうか。
技と作法を心得たものだけが踏み込むことを許された地。平面界を揺るがせたZの領域。

私が到達するのはいつだろう。最短ルートは今夜カレーにケチャップを入れること。
私もその門をくぐれるのか。その先には何があるのか。
教えて、トーマス。