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もちつきにっき

名刺に書いてる以外のこと。

ボタン、漬物、控え室

最近、予想通りのことしか起こらない。

 

控え室ではみんな緊張した面持ちで分厚い対策本やら自分のノートやらを見ている。

私は冷めた目つきでそれらを眺め、少しきついパンツのボタンを右手で触る。

やっぱ太ったんだな私。春の健康診断で突きつけられた穏やかな右上がりのグラフが頭に浮かぶ。

社員らしき男が部屋のドアを開け誰かの名前を呼んだ。

…みかんが食べたくなる名前だ。

「はいっ」

みかんちゃんは笑顔で快活な返事をして

てきぱきと自分の荷物をまとめ、男のもとにかけより礼をした。

「よろしくお願いいたします」

控え室から面接ははじまってますよ、ですかい。

自分の原型に合うものを探したいのに

用意された型にうまく収まる方法ばかり流通している。

原型がわからないから既成の型に守られていたほうが安心するのか。

ケッと横を向き、左手でお腹をさする。

やる気がないわけではないが、

型に必死におさまろうとする周囲の雰囲気には辟易していた。

大量生産おにぎり的服装に身を包む私だって

結局大差ないことには気づかないふりをする。

顔を向けた先には重厚な作りの本が詰まっている本棚があった。

六法全書、か。

あ、そういえば返事してないな。

ポケット六法を小脇に抱えて派手なショートパンツを穿いた男の姿が

頭のスクリーン上に登場した。

「ほんとに好きだよ」と書かれたふきだしを左側に表示したトーク画面を

1週間ほど放置している。

世の中に存在する大体の物はいつかゴミになる。

人間も、気持ちも、関係も期限がある。

いつその時が来るかが問題なだけだ。

歯の浮くような文言が浮遊するのを見て、

予想通りのタイミングで終わったなと思った。

ケーキは賞味期限を過ぎた12時に突然紫色になるわけではないが

人間に関することは突然変化する。

あーあ。まぁでも楽しかったな。

熱しやすく冷めやすい私の気持ちの折れ線グラフは

「法学部のチャラい後輩について」という題名で

頂点が20度の角を描いてゼロに着地した。

しかしなかなかにY軸の最高値は悪くなかった。

同時期にはまった白菜の漬物は少なくとも上回っていた。

私は一度気に入ると病的なくらいのめり込んでしまう。

スーパーで安く売られていた白菜の浅漬けを

久しぶりに買って食べてみたら驚くほどおいしかった。

それから1日に1パック消費するようになった。

塩分量のことを考えれば相当不健康なことはわかっていたけど

やめられなかった。

体のなかに塩分が蓄積されて顔も体もぶくぶくむくんで

破裂してしまう姿を想像したけど、

どうせすぐ折れる線だとわかっていた。

実際、そんなことになる前に飽きてしまった。

あれも鋭角20度くらいのグラフだったな。

 

みかんちゃんが少しリラックスした表情で男と帰ってきた。

「では次は」

私の名前が呼ばれた。

「はい」と少し口角をあげて席を立つ。

私はこの面接に受かるだろう。

予想通りの日々を、あきらめたような顔で過ごしながら

どうしても期待してしまう私に

救いの手を差し伸べる誰かを、

もしくは

完膚なきまでにつぶしてくれる誰かを。

他力本願にずっと待っている私は、

笑顔で男に言った。

「よろしくお願いいたします」

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三題噺その2。漬物の突然感が隠せない。ぬぅ。